閉店後、人妻パートの白い靴下に触れた|第6話「白い靴下を脱がない夜」

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香織さんとキスをしてから、三日が過ぎた。

同じ売り場に立っていても、もう以前のようには彼女を見られない。

商品を並べる横顔。

客へ向ける穏やかな笑顔。

黒いスリッポンからのぞく白い靴下。

すべてを見ながら、閉店後のバックヤードで触れた体温を思い出してしまう。

香織さんも、何事もなかったように仕事をしていた。

けれど、すれ違うときだけ、俺の顔を見て小さく笑った。

その視線は、あの夜を覚えている人のものだった。

土曜日の夕方、仕事を終えて帰ろうとしたとき、スマートフォンが震えた。

香織さんからだった。

『今夜、会える?』

短い文章を見ただけで、心臓が速くなる。

『会えます』

すぐに返事をすると、駅から少し離れた場所を指定された。

待ち合わせの時間は、午後九時。

いつものスーパーではない。

閉店後のバックヤードでもない。

誰にも見られず、二人だけになれる場所だった。

駅前の人通りから離れた角で、香織さんは待っていた。

淡い色のブラウスに、膝下まである紺色のスカート。

仕事中のエプロン姿とは違う、大人の女性の服装だった。

足元には黒いローファー。

その履き口から、真っ白な靴下がのぞいている。

いつものリブ靴下より少し長く、履き口がきれいに三つ折りにされていた。

「待った?」

「今来たところです」

ありふれた会話なのに、互いの顔をまともに見られなかった。

香織さんの左手には、今日も結婚指輪があった。

「行きましょうか」

彼女が先に歩き出す。

俺は何も聞かず、その隣を歩いた。

たどり着いたのは、駅から離れた小さなホテルだった。

入口の前で、香織さんの足が止まる。

「ここまで来て、変だけど……」

彼女は指輪に触れながら言った。

「まだ、帰れるわよ」

「香織さんは、帰りたいですか」

すぐには答えなかった。

けれど、やがて俺の手を握った。

「帰りたくない」

その言葉を聞いて、俺たちは中へ入った。

部屋の扉が閉まる。

スーパーの制服も、店内放送も、誰かの視線もない。

二人きりだった。

香織さんはベッドの端へ腰を下ろした。

俺は少し離れた場所に立ったまま、彼女を見ていた。

「そんなところに立っていないで、こっちへ来て」

隣へ座ると、香織さんの肩が触れた。

ほのかな香水と、見慣れた柔軟剤の香りがする。

「緊張してる?」

「しています」

「私もよ」

香織さんはそう言って笑った。

左手の結婚指輪が、ベッド脇の明かりを受けて光っている。

「指輪……外さないんですか」

俺が尋ねると、香織さんは薬指を見つめた。

「外したら、独身のふりをしているみたいでしょう」

「はい」

「私は人妻のまま、ここへ来たの」

静かな声だった。

「それを分かっていて、悠真君に会いに来たのよ」

その言葉に、胸の奥が熱くなる。

香織さんは身体の向きを変え、俺と向き合った。

「それでも、抱いてくれる?」

俺は答える代わりに、彼女の頬へ手を添えた。

一度だけ目を見る。

香織さんが小さくうなずいた。

唇を重ねる。

最初から、バックヤードでしたときより深いキスだった。

彼女の指が、俺のシャツを強くつかむ。

俺も背中へ腕を回し、逃がさないように抱き寄せた。

何度も唇が重なる。

息を継ぐために離れても、香織さんはすぐに俺を求めた。

「悠真君……」

名前を呼ぶ声が甘く震えていた。

俺は首筋へ唇を移した。

香織さんの肩が小さく揺れる。

ブラウス越しに触れる身体は温かく、抱きしめるたびに柔らかく俺を受け止めた。

「待って」

突然、香織さんが俺の胸へ手を置いた。

俺はすぐに身体を離した。

「嫌でしたか」

「違うの」

香織さんはベッドから立ち上がった。

そして俺の前で、黒いローファーへ手を伸ばした。

右足。

左足。

二足の靴をゆっくり脱ぎ、床へそろえて置く。

紺色のスカートの下に、三つ折りにされた白いリブソックスが現れた。

両足とも、汚れひとつない真っ白な靴下。

「今日はね、悠真君に見せるために選んだの」

香織さんが恥ずかしそうに言った。

「いつもの白い靴下とは、少し違うでしょう?」

「履き口が三つ折りになっています」

「やっぱり、すぐ気づくのね」

彼女はベッドへ座り直し、右足を俺の膝へ乗せた。

白い靴下のつま先が、俺の服へ触れる。

「触って」

今度は俺から頼む必要がなかった。

香織さん自身が望み、白い靴下に包まれた足を差し出している。

俺は両手で右足を包んだ。

足裏から伝わる体温。

細いリブ模様。

三つ折りにされた履き口の厚み。

バックヤードで触れたときより、香織さんの身体が近くにある。

左足も持ち上げ、俺の膝へ預けられた。

両足を抱えるように支えると、香織さんの呼吸が少し速くなった。

「一日中、履いていたの?」

「夕方に履き替えたの」

「俺に会うために?」

「そうよ」

俺は白い靴下の足の甲へ顔を近づけた。

清潔な布の香りの奥に、香織さんの体温が混じっている。

彼女を見上げると、頬を赤くしながらも目をそらさなかった。

「してほしかったんですか」

「前にされたとき……嫌じゃなかったから」

白い靴下へ唇を触れさせる。

香織さんのつま先が小さく動いた。

もう一度。

今度は足の甲から、三つ折りの履き口へ向かって、ゆっくり唇を重ねていく。

「そんなところまで……」

香織さんの指が俺の髪へ触れた。

止めるためではない。

もっと近くへ引き寄せるような手つきだった。

俺は白い靴下に包まれた足首へ頬を寄せた。

彼女の体温を感じながら、三つ折りの白い布へ唇を押し当てる。

香織さんが息をのみ、俺の名前を呼んだ。

「悠真君、こっちへ来て」

俺が顔を上げると、香織さんは両手を伸ばした。

抱き寄せられ、再び唇が重なる。

今度は彼女のほうが積極的だった。

俺の首へ腕を回し、身体を預けてくる。

白い靴下に包まれた両足が、俺の脚へ触れていた。

キスをしたまま、二人でベッドへ倒れ込む。

香織さんの髪が白いシーツへ広がった。

「靴下……脱がさないの?」

耳元で尋ねられた。

「脱がないでほしいです」

俺が答えると、香織さんは少し照れたように笑った。

「そう言うと思った」

彼女は白い靴下を履いた足を持ち上げ、俺の身体へ絡めた。

三つ折りの履き口が、紺色のスカートの裾からのぞいている。

「じゃあ、このままね」

それは、今夜はもう戻らないという合図だった。

俺は香織さんを抱きしめた。

ブラウスのボタンへ指をかけると、彼女の手が重なる。

「大丈夫よ」

香織さんは自分から、ひとつずつボタンを外した。

隠されていた肌が少しずつ現れる。

俺はそこへ唇を重ね、彼女の体温を確かめていった。

香織さんは声を抑えるように唇を結んでいた。

けれど、身体は俺から逃げなかった。

むしろ触れるたび、もっと近くへ引き寄せようとする。

結婚指輪をした左手が、俺の背中を強くつかんだ。

「こんな私でも……いいの?」

「香織さんだから、ここにいます」

「人妻なのよ」

「分かっています」

「明日になったら、後悔するかもしれない」

「今、やめますか」

香織さんは俺を見つめた。

そして首を横に振った。

「やめないで」

もう迷う理由はなかった。

重なった身体の間から、最後の距離が消えていく。

白い靴下に包まれた両足が、俺の腰へ絡んだ。

香織さんは俺の名前を呼びながら、自分の意思で俺を受け入れた。

最初は互いの呼吸を確かめるように、ゆっくりと。

やがて、抑えていた想いがあふれるように、二人の動きが重なっていく。

シーツの上を、白い靴下の足が何度も擦った。

三つ折りの履き口が少し乱れても、香織さんは脱ごうとしなかった。

俺のために選んだ白い靴下を履いたまま、何度も身体を寄せてくる。

「悠真君……もっと近くに」

腕に力を込め、彼女を抱き寄せた。

香織さんも俺の背中へ両腕を回した。

結婚指輪が肌へ当たる。

その冷たさと、彼女の身体の熱さが同時に伝わった。

いけないことをしている。

誰かを裏切りながら、人妻を抱いている。

そう分かっているのに、二人とも止まれなかった。

香織さんの声。

乱れた呼吸。

白い靴下の足が、俺を逃がさないように絡みつく感触。

すべてが胸の奥へ刻まれていった。

互いの名前を呼びながら、最後まで身体を離さなかった。

やがて動きが止まり、静かな部屋に二人の呼吸だけが残った。

香織さんは俺の胸元へ顔を寄せたまま、何も言わなかった。

俺も背中へ腕を回し、しばらくその温かさを抱いていた。

白い靴下に包まれた片足が、まだ俺の脚の上に乗っている。

三つ折りの履き口は少し崩れていた。

俺が指先で直すと、香織さんが小さく笑った。

「そんなときまで、靴下を見てるのね」

「今日は、俺のために履いてくれたから」

「そうよ」

香織さんは白い靴下のつま先で、俺の足へそっと触れた。

「だから、帰るまでは脱がない」

そのとき、ベッド脇に置かれたスマートフォンが震えた。

画面を見た香織さんの表情が変わる。

表示されていた名前は見えなかった。

けれど、誰からなのかは分かった。

香織さんは身体を起こし、乱れた髪を手で整えた。

左手の結婚指輪が、再び目に入る。

少し迷ったあと、通話ボタンを押した。

「もしもし」

さっきまで俺の名前を呼んでいた声が、いつもの落ち着いた声へ戻っていた。

「うん。友達と話してたの……もう帰るから」

電話の向こうへ返事をしながら、香織さんの白い靴下の足は、まだ俺の手の中にあった。

通話を終えると、部屋に重い沈黙が落ちた。

「帰らないと」

「はい」

俺は白い靴下から手を離した。

けれど香織さんは、その足をすぐには引かなかった。

「悠真君」

「はい」

「今日のこと、後悔してる?」

「していません」

「私も……今は、してない」

香織さんはそう言って、俺へ短いキスをした。

そしてベッドから降り、床にそろえられた黒いローファーへ足を入れた。

右足。

左足。

三つ折りの白い靴下が、黒い靴の履き口からのぞく。

人妻の顔へ戻った香織さんが、扉の前で一度だけ振り返った。

「次に会うときも、白い靴下がいい?」

「はい」

俺が答えると、香織さんは寂しそうに、それでも嬉しそうに微笑んだ。

「分かった。選んでおくね」

扉が閉まったあとも、部屋には香織さんの体温が残っていた。

俺の手にも、身体にも、白い靴下越しに触れた彼女の温かさが残っている。

俺たちの秘密は、もう後戻りできないところまで進んでいた。


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※本作品はフィクションです。登場人物はすべて20歳以上です。

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