閉店後、人妻パートの白い靴下に触れた|第5話「白い靴下越しの体温」

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「もう少しだけ……そのままでいて」

香織さんの声を聞きながら、俺は白い靴下に包まれた右足を両手で支えていた。

手のひらに収まったかかとは、思っていたより小さい。

柔らかな白い生地の奥から、香織さんの温度がゆっくり伝わってくる。

夢にまで見たはずの瞬間なのに、胸が苦しくなるほど緊張していた。

「そんなに震えなくてもいいのに」

香織さんが小さく笑った。

「香織さんの足も、少し震えています」

俺が答えると、彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。

「それは……こんなふうに男の人に触られるなんて、久しぶりだから」

左手の薬指で、細い結婚指輪が光っていた。

その指輪を見た途端、手を離したほうがいいのではないかと思った。

けれど、香織さんの足は俺の手の中に残ったままだった。

「嫌だったら、すぐに言ってください」

「嫌じゃないわ」

今度は迷いのない返事だった。

「むしろ、悠真君がどんなふうに触れるのか……少し気になってた」

その言葉に背中が熱くなった。

俺は白いリブ靴下のかかとを、親指でそっと撫でた。

細い縦模様が指先へ触れる。

一日中、香織さんの足を包んでいた白い生地。

洗剤の清潔な香りに、彼女自身の温かな気配がほんの少し混じっていた。

「これが、そんなに好きなの?」

「はい」

「普通の靴下よ」

「香織さんが履くと、普通じゃなくなります」

香織さんは困ったように笑った。

けれど、頬は赤いままだった。

俺はかかとから足首へ、ゆっくり指を滑らせた。

白い靴下越しに、細い骨の形が分かる。

足首へ触れるたび、香織さんのつま先が小さく動いた。

「くすぐったいですか」

「少しだけ」

そう言いながらも、彼女は足を引かなかった。

「もう片方も……触ってみたい?」

椅子の下に置かれていた左足が、静かに持ち上がった。

俺の答えを待つように、白い靴下のつま先が目の前で止まる。

「触れたいです」

俺は右足を支えたまま、左足のかかとにも手を添えた。

両足とも、同じ白いリブ靴下。

けれど、触れてみると形も温度も微妙に違っていた。

左右の足を俺へ預けていることが恥ずかしいのか、香織さんは膝をそろえたまま俯いていた。

その仕草が、たまらなく愛おしく見えた。

「悠真君」

「はい」

「今、どんな気持ち?」

「ずっと見ていた人の白い靴下に、本当に触れているんだって……まだ信じられません」

「それだけ?」

また、あの尋ね方だった。

俺の気持ちをもっと聞きたいとき、香織さんは必ず「それだけ?」と言う。

「もっと近くにいたいと思っています」

香織さんが顔を上げた。

視線が重なる。

彼女は何も言わず、右足を俺の胸元へ伸ばした。

白い靴下のつま先が、作業着の上から胸へ触れる。

心臓の音を確かめるように、ゆっくり押し当てられた。

「すごく速い」

「香織さんのせいです」

「私、何もしてないわよ」

「こうして足を預けてくれています」

「悠真君が触りたいと言ったからでしょう?」

からかうような声だった。

けれど、その表情には余裕がなかった。

香織さん自身も、普段とは違う呼吸をしている。

俺は胸元に触れている白い靴下のつま先を、そっと手で包んだ。

「ここにも、触れていいですか」

「もう触ってるじゃない」

「手じゃなくて……」

言葉が続かなかった。

俺の視線が何を求めているのか、香織さんには伝わっていた。

白い靴下のつま先と、俺の唇との距離。

香織さんは一度、薬指の結婚指輪を見つめた。

「この指輪をしている私が、こんなことをしているのよ」

「やめますか」

俺はすぐに尋ねた。

香織さんは首を横に振った。

「悠真君は、やめてほしい?」

「いいえ」

「だったら……少しだけ」

香織さんは椅子の背へ身体を預け、右足を俺のほうへ差し出した。

俺は両手でかかとを支え、白い靴下に包まれた足の甲へ顔を近づけた。

一度だけ香織さんを見上げる。

彼女は逃げずに俺を見つめ、小さくうなずいた。

俺は白い生地の上へ、そっと唇を触れさせた。

ほんの短い口づけだった。

それでも香織さんの身体は、椅子の上でわずかに震えた。

「……本当に、するのね」

「すみません」

「謝らないで」

香織さんの指が、俺の髪へ触れた。

優しく撫でるような手つきだった。

「嫌じゃないって言ったでしょう」

俺はもう一度、白い靴下へ唇を重ねた。

今度はすぐに離れなかった。

生地越しの温度を感じながら、足の甲へ静かに口づける。

香織さんの手が、俺の髪を少しだけ強くつかんだ。

「悠真君……」

名前を呼ぶ声が、いつもの香織さんとは違っていた。

甘く、かすかに震えている。

俺が顔を上げると、彼女の頬は赤く染まっていた。

「こんなことをされると、普通に仕事できなくなるわ」

「俺は、もうできていません」

「知ってる」

香織さんは足を床へ戻すと、俺の頬へ手を添えた。

薬指の結婚指輪が肌に触れる。

俺はその手を拒めなかった。

「白い靴下から始まるなんて、悠真君らしいわね」

「変ですか」

「少しだけ」

香織さんが微笑んだ。

「でも、嫌いじゃない」

俺は立ち上がり、椅子に座る香織さんと向き合った。

近い。

彼女の吐息が届くほど近くに、大人の女性の顔がある。

「香織さん」

「なに?」

「キスしてもいいですか」

香織さんの笑顔が消えた。

真剣な目で俺を見つめている。

「その質問に答えたら、私たち、もう元の関係には戻れないわよ」

「戻りたくありません」

香織さんはしばらく黙っていた。

やがて、俺の作業着の胸元を指先でつかんだ。

そして自分から、ゆっくり顔を近づけてきた。

唇が触れる。

最初は確かめるような、短いキスだった。

一度離れたあと、香織さんは俺の目を見た。

俺が動かずにいると、今度は彼女のほうから唇を重ねてきた。

さっきよりも長く、深いキスだった。

俺は香織さんの背中へ腕を回した。

えんじ色のエプロン越しに感じる、大人の女性の身体。

彼女の両手も俺の背中へ回り、離れないように服をつかんだ。

椅子の前には、脱いだ黒いスリッポンが二足そろっている。

白い靴下に包まれた両足が、俺の足元へ触れていた。

誰もいない閉店後のバックヤード。

聞こえるのは冷蔵設備の音と、二人の乱れた呼吸だけだった。

どれほどそうしていたのか分からない。

突然、遠くの扉が閉まる音が響いた。

俺たちは同時に身体を離した。

「警備の人かもしれない」

香織さんはそう言いながら、慌てて黒いスリッポンへ足を入れた。

右足、左足。

白い靴下が靴の中へ隠れていく。

それまでの出来事が夢だったように、いつもの仕事姿へ戻っていく。

けれど、赤くなった頬と潤んだ目だけは、元には戻っていなかった。

「悠真君」

「はい」

「今日のことは、誰にも言わないで」

「言いません」

「それから……」

香織さんはエプロンの乱れを直しながら、俺を見た。

「今度は、もう少しゆっくりできる場所がいいわね」

そう言って、彼女は先にバックヤードを出ていった。

一人残された俺の手には、まだ白い靴下越しの温度が残っていた。

唇にも、香織さんへ触れた感触が残っている。

俺たちはもう、ただのパート仲間には戻れない。

そして俺は、それを少しも後悔していなかった。


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※本作品はフィクションです。登場人物はすべて20歳以上です。

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